恩師の言葉
2021.10.20
シスター奥井博子
経歴
不二聖心女子学院校長 1982年4月~1995年3月
聖心会日本管区長 1995年4月~2001年3月
聖心女子学院校長 2001年4月~2009年3月
聖心会総長顧問 2009年4月~2016年12月
心に残っている不二聖心での思い出
今日私の心の奥に湧いてくる懐かしい思い出の場面は、各季節がもたらした不二聖心のキャンパスの美しさによるものです。特に「秋」の美しさは忘れられません。暑い夏が終わって、ホッとしながら旧牧草地を散歩する午後は喜びの時でした。バッタやトンボが飛び交う中を萩や桔梗を鑑賞して過ごしました。
やがて、まもなく11月3日の秋のつどいの準備期間となります。その時期の一場面が私のとっておきのものでした。学院中の人たちが総練習や、展示や装飾に忙しくしている真最中、夕方5時ころになると、北の空が夕焼けで深紅に染まります。お茶畑の背後にあるススキの穂が黒いシルエットとして、輝いています。裾野の丘から見渡す天地全体がシ一ンとしています。そこに醸し出される幻想的な場面に思わず、息をのんで、見とれてしまっていた日々をいただけたことを感謝のうちに思い出しています。
支えとなっている出来事
最も大きな支えとなっているできごとは 不二聖心初代院長でいらしたアイルランド人のマザーエリザベス・ダフとの出会いでした。1965年5月24日の創立者の祝日の前日に私は聖心会修練院に到着しました。家族と別れて、いよいよ修練院の建物に入る前に、聖堂で祈った時でした。もうすでに引退なさっていたご高齢のマザーは一人で、十字架の道行きをしておいででした。聖堂を出ようとしたときに、マザーが進んで私のほうにいらしたので、びっくりしたことを覚えています。私を抱きしめて、“I do not know you but I know that you are a good person.”と言ってくださったのです。
この言葉はその後の私の人生に大きな影響力を及ぼしています。新しい修練院での生活、特にバチカン公会議後の修道院の生活の変化、そして社会全体の動きの中で、不安と恐れに悩んだことは数多くありました。自分自身のみじめさに打ちのめされたこともありました。しかし、マザーの持っていらしたキリストにおける楽観的なとらえ方は何か起こるたびに、”Good. OK.“という力づけで、私を支えてくれました。そのおかげで、現在の私がいるのです。
卒業生へのメッセージ
コロナ禍で、皆様とお会いする機会が減ってしまい、残念です。しかしうれしいお知らせを良く耳にします。不二聖心の卒業生がお互いに大変苦しい状況にあうと、さっと助け合っているとのことです。
昨今、教皇フランシスコは次のようにおっしゃっています。
“私たちの社会の未来は、多様性と、諸文化間の関係によって豊かになる「カラフルな」 未来です。だからこそ私たちは今日、調和と平和のうちに、ともに生きることを学ばなければなりません。”
(2021年9月26日 教皇メッセージ)
寄宿舎のある不二聖心で育った皆様にとって、多様性は自然に身についていらしたことと思います。現在も19の都道府県の多様な地域から生徒たちが来て、勉強しています。皆様は地域によって、または家庭によって、考え方、生活の仕方が違っていることに驚いたり、難しさを感じたりしながら、視野を広げていらしたことでしょう。国内外に姉妹校があることによっても、グローバルなものの考え方に触れる機会が多くあったことでしょう。その結果、自分の小さな世界から飛び出して、違う世界、特に貧困や暴力で傷ついた人々へと心を向ける大切さを学んできたことでしょう。
そのような皆様が現在生活していらっしゃる所で、多様性の意義を考え、この教皇様のお言葉を深めていらしたら、うれしく思います。