恩師の言葉

2021.11.12

蒔苗博道先生

経歴
1990年 不二聖心女子学院に赴任、現在に至る。

自身の心の支えとなっている言葉や出来事
山本滉先生に教えていただいたことがたくさん心に残っています。先生が森有正の経験思想についてよく語られていたのを思い出します。2019年9月に高校2年生を引率してフランスに行き、森有正が思索を深めたパリのサントシャペルのステンドグラスを、山本先生を思いつつ見上げた時の感動は言葉に表しがたいものがありました。
山本先生は宮柊二の歌がお好きでした。

われにしも様々ありきひとびとの長き一生(ひとよ)を慎み思ふ
七階に空ゆく雁のこゑきこえこころしづまる吾が生あはれ
人工の星も「宗谷」も智識とし先づ生きん深く人を愛して
つつましき勤人(つとめにん)らの家垣の祝祭ひそか蔓薔薇咲きつぐ

山本先生もお好きであった宮柊二のこれらの歌が心の支えになっています。

心に残っている不二聖心の思い出
不二聖心での教員生活も32年目になりました。その間、多くの本を通して真に価値あるものについて生徒と分かち合えたことが心の財産となっています。本の紹介プリント「昨日の新聞から」は440号を数えました。ともに良書の魅力を分かち合える多くの卒業生との出会いがなかったら継続は難しかったと思います。
本をめぐるエピソードで忘れがたい思い出があります。ある日の授業で、大阪の古本屋、坂本健一さんについての文章を読みました。一人の生徒が「私、この人に本を紹介してもらいたい」とつぶやきました。そのつぶやきを伝えたくて大阪まで出かけていき、坂本さんのお店「青空書房」で1時間ほど不二聖心の生徒へのメッセージをうかがいました。坂本さんからの言葉を翌日の授業で聞いた生徒たちは、坂本さんに手紙を書きました。しばらくして坂本さんから手紙が届きました。それは便箋23枚の手紙でした。生徒たちへの愛情にあふれた坂本さんの手紙は、生涯変わらぬ「人間への信頼」を私の中に植え付けてくれました。

卒業生へのメッセージ
ある年の英語スピーチコンテストで高校3年生が次のように話し始めました。「不二聖心に入学した時に一つの宿題を与えられました。その宿題について私はその後、6年間考え続けました。これまでに与えられた最も長い宿題です。」そして「その宿題を私に与えたのはミスター蒔苗です。」と彼女は言ったのです。思い出しました。入学したての彼女たちに「涙のしみついたチョコをあなたは買いますか」という問いを投げかけたのです。児童労働で作られたチョコを買うか、買わないか。買えば収益が上がり児童労働は続く、買わなければ収益がなく子供たちは飢えてしまう、あなたはどちらを選びますかという問いを彼女は6年間、考え続けたというのです。不二聖心での学生生活の中で開発途上国などの貧しい国の人々の暮らしについて学んできた体験を彼女は語り、6年間かけて出した答えについて話してくれました。
マタイ伝25章に「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。」という聖句があります。不二聖心に関わるすべての人は、この聖句を生きるように招かれています。「誰かのために生きること」それこそが幸福の源であることを改めて卒業生の皆様と分かち合いたいと思います。

図書館での展示

~「昨日の新聞から」について~

2004年に読書指導の一環として「昨日の新聞から」の作成を始めました。毎週日曜日に新聞各紙の書評を読んで、生徒に紹介したい本を購入し、通読後プリントを作成して月曜日に配るということを最初の頃はしていましたので、「昨日の新聞から」というタイトルをつけました。4年前までは、月曜日の国語の授業で毎週配布し、図書館にも本を展示していただくことを続けていました。現在は不定期での発行となり、書評から知り得た本のみならず生徒に読んでほしいさまざまな本を紹介しています。

「昨日の新聞から 440号」はこちら
『ケンコ 荒波を超えて』(森本謙四郎 文芸社)を読むー戦時下に生きた一人の少年の心を育てたものは何か- 
2021年10月18日(月)発行