恩師の言葉

2024.02.17

鈴木和枝先生

経歴

1992年4月 不二聖心に赴任、現在に至る

ご自身の心の支えとなっている言葉や出来事、心に残っている不二聖心での思い出

コロナ禍を経た今、不二聖心では奉仕活動が縮小化されています。奉仕活動が少ないから生徒たちの人間性が育たないということはなく、自主活動団体を起こして勉強会をするなど活発な活動も見られ、時代に合わせたスタイルとも言えます。しかしながらコロナ前には実に多様な奉仕活動の中で、生徒たちは豊かな人間性を育んでいたと思って振り返っています。ご老人や障害を持った方、中高生が普通の学校生活では出会うことが少ない方々との直接的な出会いから学ぶことは、何にも代えがたいものだったのではないかと卒業生の皆様の姿から感じます。

20年以上も前だったと思いますが、私が温情の会委員会の顧問をしていた年のある土曜日、三島で日大の先生や近隣の高校の奉仕活動グループの代表者も集まっての奉仕・ボランティア活動の勉強会があり、互いの学校の活動を紹介して学び合うような集まりでした。他校ではクラブのような特定のグループが奉仕活動をしているようでした。不二聖心ではなかなかできないレベルの福祉学習をしているところもありました。一方、不二聖心では、施設でのお掃除や、施設に住んでいる方々への慰問など難しいことはあまりしていませんでしたが、全員が「温情の会」の一員として奉仕に取り組んできました。実はその点が重要で、後日、その集まりのことを当時の校長のシスター岩井にご報告したところ、シスターはその「全員が活動に参加することに大きな意味がある」とおっしゃいました。趣味でするのではなく、やる気が起こらなくても活動することで意味を体で知っていく。学びとしての奉仕活動のあり方でした。生徒たちが「させていただく」と意義を分かち合うこともそこにあると思います。なんとなく顧問をしていた私はその後も、聖心らしい学びを求め、温情の会委員会の生徒たちを励まし、その仕事に携わりました。

一昨年、教皇フランシスコの回勅『兄弟のみなさん』の読書会に参加しました。死刑の問題に詳しいある元大学の先生が、障害者施設での殺人事件について触れ、今の学校教育では差別の問題をどう取り扱っているのか訊かれました。教皇フランシスコはこの回勅の中で

「出会いの文化」の大切さをいくつもの段落で語っています。そのことを思い出し、私は生徒たちが社会福祉施設へ直接足を運び、そこに住んでいる方々と直接出会って、家族のような親しさを感じながらお話などをし、そうした経験を積み重ねていくことで差別の心は持たなくなることを実感していると話しました。教皇フランシスコはこの本で出会いの文化が平和を構築していくことを述べています。不二聖心で見てきた生徒の様子を思い出し、自然とそのことを話すことが出来ました。

また数理統計学の研究に携わっているある卒業生は2023年度の学校説明会を前に、次のようなことも語ってくれました。

「物理学や数学などの基礎研究は人類に対する奉仕活動とも言えます。研究は必ずしもうまく行くものではないですが、『この研究ができたらきっと将来が少し良くなる」と信じて研究を進めることができるのは不二聖心での学びのおかげだと思います。研究は自分一人で完成するものではなく、人類の長い歴史の中で積み重ねられた知見の上に成り立ちます。そういった歴史に敬意を払い、少しでも知見を積み重ねて次の世代が文化的な豊かさを享受できるよう貢献できたら幸いです。」

 このメッセージを受け取って私は本当にうれしいと思いました。この説明会の少し後に、教皇フランシスコは『ラウダーテ・デウム』という気候危機についての本を出しています。2023年11月のCOP28を前に私たち地球に生きる者に向けていかに生きていくべきかを発信されたのですが、科学技術やその研究についてこの卒業生が書いたような謙虚さや倫理観がなければこの危機は解決できないという意味のことを書いていたのです。

不二聖心を巣立って行かれた皆様が、奉仕の心で出会いの文化を築き、「平和をつくる」・「ともに暮らす家(地球)を守る」ミッションをもってそれぞれの場で活躍されることを切に願っております。

卒業生へのメッセージ

お元気でお過ごしのことと思います。卒業生の中には世界で広がりつつある紛争や能登半島の地震、また国内外の災害被災地のために心を痛めている方も多いのではと思います。不二聖心で学ばれたことは知識や語学力だけではないと思います。自分のまわり、あるいは世界のどこかにいる苦しみや困難のなかにいる人々の傷に寄り添う心、そして小さくされた人々が苦しむ社会を変えていくために常に学び続け、行動していく、そんな原動力が種として不二聖心で蒔かれたのではないかと思います。その芽が聖心の卒業生らしい花となって咲かれるようお祈りしております。

ファイル_000 (1)